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第二章 再会は最悪で最低31

last update Last Updated: 2025-01-16 18:55:59

大くんは私をじっと見つめてくる。だから、ついつい口から言葉がこぼれた。

「……大くん以外、ないよ」

一瞬、空気が止まったかのように、酸素濃度が薄くなって息苦しくなる――。

「そうなんだ。ふーん」

「……私は、簡単に誰とでもする女じゃないの……。って、もう二十九歳なのにね。笑えるでしょう? 交際もしなかった」

「そんなことないよ。そうやってピュアで一途なところが、俺は好きだったよ」

好きって言われるたびに、心地よい胸の高鳴りに支配される。

目を丸くしていると、頭を撫でてくれた。

「安心して。ね、美羽。襲わないから。ちょっと眠らせてね」

ころんと横になった大くんは、私の太ももを枕にして、甘えてくる。

温かい重みが心地いいから、強引に引き剥がせなくて戸惑ってしまう。このまま、時が止まってしまえばいいのに。

「美羽の太もも気持ちいい……。ずっと、そばにいたい」

甘えてくれる大くんにキュンキュンしていたのは、秘密。

冷静なふりをしていたら、スースーと寝息が聞こえてきた。どうやら、本気で眠りに入ってしまったみたい。

風邪をひかせてはいけないから、そっと頭を下ろして掛け布団を持ってきた。

気持ちよさそうに眠っていて、安心している子供のような寝顔。

綺麗な唇に整った顔……。

ゴツゴツしているけど、綺麗な指が目に入り。

その指に翻弄されていた甘いひとときを思い出して、一人頬を熱くしている。

もう一度、大くんと恋愛をしても……いいのかな。

こうやって会いに来てくれるということは、私を好きでいてくれてるの?

それとも、過去が懐かしいのかな……。

なかなか眠れなくて大くんの寝顔を朝方まで見つめていた。

ふっと気がつくとベッドの上にいた。背中に人の体温を感じ、後ろから抱きしめられていることがわかった。

大くんは添い寝して頭を撫でてくれている。

心臓の鼓動がおかしくなる。耳が熱い……。

息を潜めて眠ったふりをした。

部屋はもう明るい。

休みだからまだ眠っていてもいいのだけど、落ち着かない。

「美羽。また来るからね」

眠っていると思ったのか、大くんは優しい声でつぶやいてベッドから降りた。

今日も仕事があるのだろうか。

昔も眠っている私を起こさないように、そっと家を出て行ったことを思い出し、泣きそうになる。

起き上がった。

「大くん、お仕事?」

驚いた顔をして私を見つめた大くんは「うん」と言って
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    赤坂side「話って何?」俺は、結婚の許可を取るために、大澤社長と二人で完全個室制の居酒屋に来ていた。大澤社長が不思議そうな表情をして俺のことを見ている。COLORは一定のファンは獲得しているが、大樹が結婚したことで離れてしまった人々もいる。人気商売だから仕方がないことではあるが、俺は一人の人間としてあいつに幸せになってもらいたいと思った。それは俺も黒柳も同じこと。愛する人ができたら結婚したいと思うのは普通のことなのだ。しかし立て続けに言われてしまえば社長は頭を抱えてしまうかもしれない。でもいつまでも逃げてるわけにはいかないので俺は勇気を出して口を開いた。「……結婚したいと思っているんだ」「え?」「もう……今すぐにでも結婚したい」唐突に言うと大澤社長は困ったような表情をした。ビールを一口呑んで気持ちを落ち着かせているようにも見える。「大樹が結婚したばかりなのよ。全員が結婚してしまったらアイドルなんて続けていけないと思う」「わかってる」だからといっていつまでも久実を待たせておくわけにはいかないのだ。俺たちの仕事は応援してくれるファンがいて成り立つものであるけれど、何を差し置いても一人の女性を愛していきたいと思ってしまった。「解散したとするじゃない? そうしたらあなたたちはどうやって食べていくの? 好きな女性を守るためには仕事をしていかなきゃいけないのよ」「……」社長の言う通りだ。かなりの貯金はあるが、仕事は続けていかなければならない。俺に仕事がなければ久実の両親も心配するだろう。

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